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2015年09月07日

第1話の8:君の部屋に行きたい

(長い話です。その1からお読みください)

料理が来るまで、私はタイビール、ノイはアルコールはダメだそうで、ミネラルウォーターを飲んでいる。

そういえば店のレディドリンクも、コーラを注文していた。

アルコールがダメだなんて、すっかり真面目モードではないか。これじゃあ、お固いデートだ。

店と同じ調子のきわどいトークは、とても許してもらえない雰囲気だ。


かといってデートで沈黙するわけにも行かず、仕方なく必死で話題を探し、会話を続ける。

度の強いタイビールをぐいぐい飲んで、酔いで勢いをつけて、ノイの田舎のこと、店の給料や、前職などを聞いた。

住んでいる部屋の様子も、それとなく聞きだす。


ゴーゴーの子は、気に入った客を部屋に連れ込むこともあると聞いていたので、期待感満々だったのだ。

だが、ノイはお姉さん夫婦と、部屋は別だが同じアパートに暮らしているという。

うーむ、それではムリか。残念。ここで、選択肢が一つ消えたな。

(することは一つなので、忘れているわけではないので)

いい感じにほぐれたところで、料理が来た。たっぷりと盛られた皿が次々に並ぶ。

ベビーコーンの入った野菜炒め、揚げた魚の甘酢あんかけ、緑色の辛いチキンカレー、酸っぱくて辛い春雨サラダなど、典型的なタイ料理だ。

気を利かして二人分注文してくれたようだが、こっちは夕食を食べてきたので、とても食べきれる分量ではない。

だがノイは、フォークとスプーンを器用に使い、白飯と交互に、うまそうに口に運んでいる。

やはりあれだけの重労働をしたあとだから、腹もすくのだろう。小さな体のどこに入るのかと思えるくらい、見事な食べっぷりだ。

「アナタあんまり食べないのね」

ここで、「腹へってないから」なんて箸にも棒にもかからない返事をしても、面白くもなんともないので、

「感激で胸が一杯だから」

「うふふ」


「ビール、もういいの?」

「うん、沢山飲んでトイレに行ったら、その間かわいい顔が見れないから」

「うふふ」


軽口を楽しんだり、食べっぷりを眺めたり、時にはこっちも味見をしたり。

ふと気がつくと、生演奏のバンドはもう帰ったようで、あたりはシンとなっている。カンバンが近いらしい。

せっかくタイに来たんだから、もっとタイらしい雰囲気の、タイのカントリーミュージックを聴かせる店に行きたいなあと提案してみた。

するとノイはハンドバッグからケータイを取り出し、あちこち電話をかけだした。

どうやらタイのディープな音楽を聴かせる店を、友だちに聞いているようだ。

こんなものに興味がある客ははじめてらしい。

だがすぐに対応するところは、やはり接客のプロだ。客を楽しませることが自分の義務だと、わきまえている。感心して見ていた。

いい店を教えてもらったらしく、ノイは満足気に電話をしまった。

「イサーン音楽が聴けて、飲んで食べれる店があるの」

イサーンというのはタイの東北地方の名称で、バンコクに出稼ぎに来る人が多い。そんなイサーン人が集まって、郷土の雰囲気にひたる店があるらしい。


続く



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posted by 河道 at 07:32 | Comment(0) | 第1話:短髪ノイの白い桃 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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